少人数の賃貸管理会社が業務を仕組み化する順序
この記事の要点
賃貸住宅管理業の登録事業者は全国で8,943社、管理戸数の合計は約790万戸に上ります(令和4年度末時点)。分別管理や年1回以上のオーナー報告、登録の5年更新など、規模を問わず発生する事務があります。このうち記録や期限が絡む部分を仕組みに寄せ、費用判断やオーナーとの協議など人が担うべき部分と切り分けることで、少人数でも法定の事務と入居者対応を両立させやすくなります。
目次
管理戸数が増えても、担当者の数がそれに比例して増えるとは限りません。法定の事務、入居者対応、修繕の手配、オーナーへの報告が、一人か数人の担当者に集中している会社は少なくありません。何を仕組みに寄せ、どこを人が判断するか、その順序を整理します。なお、本記事は賃貸管理業務を対象とし、売買仲介は扱いません。
少人数で管理を回す会社は、実は珍しくない
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律は、令和3年6月15日に施行されました。国土交通省の発表によると、施行から間もない令和3年7月30日時点で、全国385の事業者が「賃貸住宅管理業者」として新たに登録されています。内訳は電子申請が280事業者(約73%)、郵送申請が105事業者(約27%)でした。
その後、登録数は増え続けました。国土交通省が公表した「賃貸住宅管理業者等への全国一斉立入検査結果」によると、令和4年度末時点の登録数は8,943社、登録済み事業者の管理戸数の合計は約790万戸です。この数字が示すのは、制度の対象が一部の大手事業者に限られていないということです。登録の裾野は広く、少人数で運営している会社も同じ法定義務の対象になります。
自社が対象かどうかの入口は、管理戸数です。国土交通省は、賃貸住宅管理戸数(自己所有物件の管理を除く)が200戸以上の賃貸住宅管理業者に登録を義務付けています。人員の多さではなく戸数が基準なので、担当者が数人の会社でもこの線を越えることは珍しくありません。まずは自社の管理戸数がこの基準に対してどこにあるかを確認してください。線の近くにある場合や、戸数の数え方に迷う場合の取り扱いは、下記の公式資料で確認するのが確実です。
「必ず発生する事務」を先に洗い出す
仕組みを考える前に、規模にかかわらず発生する事務を洗い出しておく必要があります。賃貸住宅管理業法ポータルサイトが示す管理業者の業務には、次のようなものがあります。
期限があるものは、次の3つです。
- 登録の更新(有効期間5年、満了日の90日前から30日前までに更新申請)
- 登録事項の変更届(変更があった日から30日以内)
- オーナーへの定期報告(少なくとも年1回以上の頻度で、管理業務の実施状況と入居者からの苦情の発生・対応状況を報告)
記録が要るものとしては、家賃・敷金等の受領金銭を扱う分別管理があります。専用口座を自己の固有財産の口座と別に開設するだけでなく、受領した金銭がどの管理受託契約に基づくものかを、帳簿や会計ソフト上で直ちに判別できる状態にしておく必要があります。加えて、営業所または事務所ごとに業務管理者を1名以上配置することも求められます。
立入検査が示す、躓きやすい場所
国土交通省は令和5年1月から2月にかけて、法施行後初めて全国97社に対する立入検査を実施し、59社に是正指導を行いました。指摘の内訳は(重複該当あり)、管理受託契約締結時の書面交付義務違反が28件、書類の備え置き及び閲覧義務違反が18件、管理受託契約重要事項説明義務違反が17件、従業者証明書の携帯義務違反が15件、帳簿の備付け義務違反が11件でした。国土交通省はこの結果について「一部の賃貸住宅管理業者等において法の理解不足が見られる結果」と記載しています。
上位に並ぶのは、書面の交付、書類の備え置き、重要事項の説明、帳簿の備付けです。いずれも取引そのものというより、その前後に必要な記録や書面の準備に関わる項目です。特別な悪意があるというより、日々の業務に追われる中で、書面の準備や記録の更新が後回しになりやすい構造だと読むほうが実態に近いはずです。
何を仕組みに寄せるか
記録と期限が絡む業務は、仕組みに寄せやすい部分です。問い合わせや入居者からの連絡内容の記録、登録更新・変更届の期限管理、定期報告のタイミング管理、重要事項説明書や報告書の下書き作成などが当てはまります。
原則は2つです。ひとつは、同じ情報を何度も入力させないこと。もうひとつは、期限の管理を人の記憶に頼らせないことです。ここでAIを使う場合も、任せるのは記録の下書きや期限の通知までにとどめ、内容の最終確認は人が行う形にするのが実務的です。AIは万能の代行者ではなく、記録と期限管理の負担を引き受ける役割として捉えておくと、運用の見通しが立てやすくなります。
どこは人が判断するか
仕組みに寄せられるのは、記録して、期限どおりに動かすところまでです。金額が絡む判断、相手との合意形成、例外的な状況への対応は、人が担う範囲として残しておく必要があります。
具体的には、修繕費用の負担割合、オーナーとの協議や方針のすり合わせ、入居者への説明(特にトラブル対応や退去時の精算に関わる説明)、そして通常の手順から外れる例外対応です。これらは仕組みの外側に置き、記録や期限管理で浮いた時間を、この部分に充てるという設計が現実的です。
着手の順序
すべての業務を一度に仕組み化する必要はありません。立入検査の指摘が示すように、書面の交付、書類の備え置き、重要事項の説明、帳簿の備付けは、多くの事業者で記録が抜けやすい領域です。自社の運用でこれらの記録がどこまで残っているかを確認し、抜けている領域から着手するのが順当です。
小さく始めて、記録と期限管理が実際に回ることを確かめてから、対象範囲を広げていく進め方が無理のない方法です。一度に全体を作り替えるより、確認できた範囲から積み上げるほうが、少人数の体制には合っています。
注意点
- 本記事は賃貸管理業務を対象とし、売買仲介は扱いません。
- 法令・制度の要件は改正されることがあるため、実際の対応にあたっては国土交通省など最新の公式資料で確認してください。
- 登録義務の有無は管理戸数などの要件によって個別に判断されるため、自社が対象になるかどうかも公式資料または専門家への確認が必要です。
- 問い合わせ内容や苦情対応の記録を電子化する場合は、個人情報の取り扱い方針を事前に定めておく必要があります。
よくある質問
少人数の会社でも法定の登録・報告義務は同じですか?
登録の要否は管理戸数などの要件によって個別に判断されます。国土交通省の資料では、令和4年度末時点で登録済み事業者は8,943社、管理戸数の合計は約790万戸です。登録した事業者は、分別管理や年1回以上のオーナー報告、業務管理者の配置など、規模にかかわらず共通の義務を負います。詳しくは最新の公式資料でご確認ください。
何を仕組みに寄せればいいですか?
問い合わせや苦情対応の記録、登録更新・変更届の期限管理、報告書や重要事項説明書の下書き作成など、記録と期限が絡む定型業務が対象になります。費用負担やオーナーとの協議、入居者への説明といった判断が伴う業務は、仕組みに任せず人が確認する範囲として残すのが実務的です。
何から手をつければいいですか?
国土交通省の立入検査では、97社中59社に是正指導が行われ、書面交付や書類の備え置き、帳簿の備付けに関する指摘が目立ちました。まずは自社でこれらの記録がどこまで残っているかを確認し、抜けている領域から小さく仕組み化を始めて、運用が回ることを確かめてから範囲を広げるのが着実です。
出典・参考

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